「VIP席」を作れ

「VIP席」と呼ばれる場所がある。

他の席と比べ価格が高く、より上質なサービスや体験価値が得られる席だ。飛行機で言えば「ファーストクラス」にあたるだろう。多分、べらぼうに高い料金を払い、眺めの良い席でシャンパンのグラスを傾けながらゆったりシートで楽しめるのだと思う。自分は乗ったことがないので完全にイメージだ。正直VIP席なんてアクション映画のワンシーンでしか見たことがない。そして、十中八九爆発して墜落する。いい気味だ。

飛行機の他にも、スポーツの観戦や音楽のライブといったエンターテイメントにもVIP席はある。VIP席どころか一般席も買えず、セキュリティのバイトをしながら曲を聞いていたTHE 庶民の自分からすると「えらい羽振り良さそうですなあ」と皮肉の一つも投げかけたくもなるが、実のところVIP席はそんな自分のためにあるとも言える。

それを教えてくれたのは、昨日参加したソーシャルプラットフォーム「COCIALCLUB」のプレオープンパーティの主催者だった。

ソーシャルセクター×クリエイター「COCIALCLUB PORTAL」

「COCIALCLUB PORTAL」は、ソーシャルセクターの人々が横軸で繋がったり、情報をインプットできたりするオンラインプラットフォームだ。クリエイターと共創するプロジェクトや、業界を越えたコラボレーションを通じ、ソーシャルとクリエイティブのカオスを生み出すことを目的としている。

COCIALCLUBのロゴを作成したのは、合同会社シェアローカル代表でデザイナーのすみ かずきさん。

運営するのは、「社会課題に取り組む人を一人でも多く増やすこと」をミッションに掲げる「COCIALCLUB」。当日はサービスのプレオープンパーティで、各地で活躍するソーシャルセクターの人々やクリエイターたちが集い、語らい、交流を深めた。

取り組む社会課題は三者三様ながら、どこも収益事業として成立していることに加え、長期的な視野でプロセスに関わる点も共通していた。「切り出された仕事に短期的に関わっていると収益化が難しいうえに大局が見えず、良いクリエイティブを生み出せない」。COCIALCLUB代表の北野さんはそう話す。

続けて、氏は圧倒的に良質で高いクオリティのクリエイティブが大事だと語気を強めて語った。

「『社会に良いことをしているから』で人々は振り向かない。一般ユーザーにとって、プロダクトやサービスそれ自体がイケているかどうかが判断の全て。だからこそ、クリエイティブが必要なんです」。

"異彩を、放て"をミッションに掲げ、障害のあるアーティストの作品を扱う株式会社ヘラルボニー。同社は世界の名だたるブランドの隣に自社ブランドが並ぶことを目指してきた。事実、同社のHPには「障害者」の表記が驚くほど少ない。「かわいそうだから買ってあげよう」といった同情ではなく、「めっちゃイケてるやん!」で勝負することを選んだのだ。そこにクリエイティブの真価がある。

だからこそ、COCIALCLUBがつくるコミュニティは視座の高さとクオリティの高さを併せ持ったクリエイターを求める。「社会課題に取り組む人を増やす」からといって、誰でも良いから入ってくださいのスタンスではない。以前自分のHPでも紹介したが、有名なクリエイターの格付けがある。『左ききのエレン』で登場する「AK LINE」だ。

詳しい説明はこちらの記事に譲るが、要はクリエイターを視座の高さと能力の高さでランク分けしたものである。おそらく、同コミュニティでは「ランク6」以上のクラスが求められるだろう。今の自分は甘めに見積もってもまだ「ランク5」あたりなので、少し厳しいかもしれない。COCIALCLUBのコミュニティに強く惹かれるが、そのレベルにまだ達していないという実感はかなり悔しかった。

ターゲット・ラグジュアリー

高いクオリティのプロダクト・サービスは、磨かれた審美眼を持つ富裕層に刺さる。しかし、富裕層向けのビジネスだけでは社会課題の解決にはつながらない。ではどうするか。ここで話は冒頭の「VIP席」に戻る。

「VIP席」は一般客のためにあると述べた。からくりのモデルは「トリクルダウン」だ。トリクルダウンは「富裕者がさらに富裕になると経済活動が活発化し、低所得の貧困者にも富が浸透して利益が再分配される」という経済理論を指す。富の再分配である。VIP席はこれを可能にした。

一般席の売上だけでは膨大なコストがかかる飛行機は飛ばせない。富裕層が高いお金を支払ってファーストクラスを購入するからこそ、我々一般客は安価で飛行機に乗ることができる。ファーストクラスの売上が私たちの快適な空の旅を生んでいると言っても過言ではないのだ。

抽象度を上げて考えてみよう。富裕層をターゲットにしたサービス・プロダクトをクリエイティブで生むことができれば、一般客向けの低価格なサービス・プロダクトを提供することができる。キャッシュポイントを複数用意し、バランスを変えることで、より広くステークホルダーに利益を届けることができる。

ビジネスに明るく聡明な読者にとっては既知の事実かもしれないが、これは自分にとっては天啓だった。磨かれた審美眼を持つ富裕層に認めてもらえるようなクリエイティブが生み出せれば、社会課題の解決に充てる原資を得られる。そのためにはまず、自分のクリエイティブの腕を磨き、高付加価値のサービス・プロダクトを生めるようになることが先決だ。

お金の稼ぎ方には能力が、お金の使い方には思想・哲学があらわれる。しっかり稼ぎ、ちゃんと使えるクリエイターになろう。そして、VIP席に座る人に皮肉を投げかけるのはやめよう。爆発していい気味だとか言ってごめんなさい。今度から飛行機に乗るときは、ファーストクラスに一礼してから乗ります。

この記事を書いた人

中野 広夢(Nakano Hiromu)

近畿圏を拠点として活動している編集ライター、カメラマン。大阪・福島のコワーキングスペースGRANDSLAMのコミュニティマネージャー。不登校児童生徒向けのオンラインフリースクールchoiceの共同代表/講師。大学卒業後、小学校教諭、塾講師、保育士を経験。2019年からは合同会社hyphenに転職し、コワーキングスペースmocco姫路スタッフ、コワーキングスペースmocco加古川の立ち上げに関わり、コミュニティマネージャーとして活動。その後兵庫県播磨地域の情報誌『まるはり』の編集・取材フォトライターを経て独立。2024年3月より現職。